「性別」でデザインしていませんか? モザイク脳とヒアリングシートから紐解くユーザー中心設計(UCD)のリアル

著者・監修 VisuaRise Design_Tomo

公開日:2026.10.14
更新日:2026.10.14
4~ 5 min read

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この記事を読むとわかること

この記事は誰に向けたものか

PROLOGUE ー SECTION 01

はじめに

以前、私はこんな記事を書きました。

「『あの、キラキラした感じの…』からの卒業。デザイン素材の“正しい名前”を知るということ」

Webデザイナーとしてお客様と向き合う中で、「なんかこう、パーッと光ってる感じで!」といった抽象的なご要望をいただくことがあります。こうした感覚的な言葉は、人によってイメージが異なり、「思っていたのと違う」というすれ違いを生みがちです。 この壁を乗り越えるカギは、専門用語を「避ける」ことではなく、「専門用語 + その意味の説明」という共通のモノサシ(言語)を丁寧に共有していくことだ――という内容を記事にしました。

この記事に対し、読者の方から、日本刀の鑑賞を例にした、とても興味深いコメントをいただきました。

「私は趣味で日本刀の勉強をしています。(中略)
女性は実際に物を観て、感性で表現します。それに対し、男性は理屈で感想を表現しようとするのです。これは男性脳と女性脳の違いだそうです。
『キラキラした地金』は日本刀の専門用語で『地景』や『映り』であり、『美しい刃文』は『沸』や『匂い』なのです。(中略)
人に何かを伝える際には『共通のモノサシ』を持つことが必要なのでは?」

読者コメントより(原文はこちらから)

女性が「キラキラしてて綺麗」「刃文が美しい」と“感性”で表現するのに対し、男性はそこにある「地景(ちけい)」「映り(うつり)」「沸(にえ)」「匂い(におい)」という“理屈”で語ろうとする。それを「男性脳と女性脳の違い」として説明してくださいました。

このコメントは、私にとって大きな気づきをくれました。そして同時に、ひとつの問いも生まれました。

近ごろは、世の中の流れとして性別の垣根が薄れてきています。そんな時代の変化と重ね合わせたとき、「感性か、理屈か」という違いは、男女というより、一人ひとりの個性によるものなのかもしれない――そんな風にも考えられるのではないか。そんな思いから、今回は、私なりに掘り下げてみたいと思います。

頬杖をついて寝そべる、緑色でオレンジ色の羽を持つドラゴンのVisua(ビジュア)の3Dイラスト

~ここで刀剣用語をちょっと解説~
刀剣の美しさの表現の仕方には専門用語があるらしいので、豆知識を紹介するね!

“キラキラした地金”を表現するときには、こんな表現を使うらしいよ。

  • 地景(ちけい):刃の地の部分に、黒い筋みたいに見える模様のこと。
  • 映り(うつり):光を当てると、淡く白い影のように浮かび上がる働き。

 

“美しい刃文”を表現するときには、こんな表現を使うらしいよ。

  • 沸(にえ):刃文をつくる粒のうち、大きくてキラッと見えるもの。
  • 匂い(におい):同じく刃文の粒だけど、小さくて、霞がかかったように見えるもの。

面白いね~♪

CRITICAL INQUIRY ー SECTION 02

「感性」と「理屈」は、本当に性別で分かれるのか?

いただいたコメントは、「感性で表現する人」と「理屈で表現する人」という、とても本質的な違いを教えてくれました。
ただ、私は少し疑問に思いました。

実際には、感性豊かに語る男性もいれば、専門用語で緻密に分析する女性もいます。
そう考えると、「感性か、理屈か」は性別の違いというより、その人の経験・知識・個性の違いなのではないか――そう思えてきます。

ここで手がかりになるのが、近年注目されている「モザイク脳」という考え方です。

NEUROSCIENCE INSIGHT ー SECTION 03

モザイク脳とは何か? ―「男性脳・女性脳」を超える新しい視点

従来、脳には「男性型」「女性型」の明確な違いがあると考えられてきました。
一般に「男性脳」は論理的・空間認識に優れ、「女性脳」は共感的・言語的に優れるとされる考え方です。

しかし近年、この二分法に疑問を投げかける研究が注目されています。それが「モザイク脳」という視点です。

モザイク脳(Mosaic Brain)とは、脳が「男性型」「女性型」に明確に分かれるのではなく、構造や神経回路レベルにおいて男性的・女性的な特徴がモザイクのように混在しているという、現代の脳科学や神経科学における有力な見解です。

具体的には、次のような特徴が挙げられます。

  • 人間の脳は「男性的な特徴」と「女性的な特徴」がモザイクのように混在している
  • 完全に「男性型」「女性型」と分類できる脳はごく少数、あるいはほとんど存在しない
  • 脳は性別ではなく、個人ごとに固有のパターンを持っている

この視点に立つと、先ほどの日本刀のコメントはこう読み替えられます。
 
「キラキラしてて綺麗」という感性の言葉と、「地景・沸」という理屈の言葉。この二つは対立するものでも、性別で分かれるものでもなく、同じ一人の人間の中に共存しうる。
むしろ、日本刀を深く楽しむ理想は、「キラキラして綺麗」という感性と「それは地景だ」という理屈が、一人の中でつながることなのかもしれません。

SOCIETAL REALITY ー SECTION 04

その変化は、脳の中だけの話ではない ― 社会はどう変わったか

この「性別で割り切れない」という視点は、脳科学の中だけの話ではありません。私たちの身の回りの社会でも、同じ変化が静かに進んでいます。

「美しさ=女性」という
固定観念にとらわれない表現が
見られるようになっています

職業における性別の前提が、
少しずつ多様化しています

性別に関わらず自由に選べるスタイルが
身近になっています

化粧品のCMに男性モデルやタレントが起用されるケースが増え、性別を問わないスキンケア・メイクアップの表現が定着しつつあります。富士経済が発表した調査によると、国内のメンズメイク・スキンケア市場は拡大傾向を続けており、資生堂(「UNO」や「SHISEIDO MEN」)やコーセー(「ADDICTION」)をはじめ、RMKやNARSといった主要ブランドでも男性モデルやタレントをアンバサダーに起用するプロモーションが定着しました。

また、従来は女性比率が高かったペットトリマーなどの専門職でも男性の活躍が目立ち始め、専門学校の入学者や現場のトリマーでも男性の姿は珍しくなくなり、職種による性別の枠組みが多様化しています。航空会社のキャビンアテンダントもその顕著な例ですね。

アパレル業界では、「メンズ」「レディース」という従来の売り場区分を廃止し、サイズやシルエットのバリエーションで展開するユニセックス展開のアパレルブランドが増加しています。

このように私たちの身の回りでも「こうでなければならない」という固定観念にとらわれない選択や表現が、日常の風景になりつつあります。

脳が「モザイク」であるという科学的な視点と、こうした社会の実像は、同じ方向を指しているように思えます。理論と現実の両方から、「性別の枠組み」が問い直されていると言えるでしょう。

より詳しく富士経済の発表内容について知りたい方へ

参考:株式会社富士経済 プレスリリース 第25074号
「メンズコスメティックス、ヘアケア・ヘアメイク化粧品の国内市場を調査」(2025年7月23日発表)

DESIGN DISCIPLINE ー SECTION 05

Webデザインに置き換えると、何が見えてくるか

この気づきは、Webデザインの現場にそのまま通じます。

デザインの世界でも、しばしば性別による発想が使われてきました。

  • 「女性向けだから、やわらかい色と曲線を」
  • 「男性向けだから、黒やシャープなフォントで力強く」

ターゲット設定として一定の有効性はあります。しかし「モザイク脳」の視点、そして社会の変化は、ここに潜む落とし穴を教えてくれます。

DESIGN METHODOLOGY ー SECTION 06

ステレオタイプを排す、UCD(ユーザー中心設計)のアプローチ

ここで鍵になるのが、私自身もモットーとしているUCD(User-Centered Design/ユーザー中心設計)です。UCDとは、作り手の都合やステレオタイプではなく、実際に使う「人」を起点に設計する考え方です。

私は試行錯誤をして今のスタイルを確立しましたが、従来のターゲット設定とUCDのアプローチを比較すると、主に次のような違いがあります。

項目
従来の属性ペルソナ
UCD(ユーザー中心設計)
捉え方
性別・年代・職業などの「固定属性」
利用目的・置かれた状況・課題などを深く掘り下げる
設計軸
「女性だからピンクや曲線」といった固定概念に基づく設計
ユーザーの置かれた文脈に寄り添ったデザイン・設計を通じて価値を提供する
視点
属性ごとの平均像・ステレオタイプ
観察・対話から紐解く具体的かつリアルなユーザー像

例えば、「30代女性向けのコスメサイト」を制作する場合でも、ユーザーが求めているのが「毎朝3分で終わる時短」なのか、「週末にじっくりケアするプロ仕様の仕上がり」なのかによって、サイトの設計やデザインは全くの別物になります。

脳科学におけるモザイク脳の視点や、近年の社会の変化を踏まえると、UCDという考え方は、非常に有効です。具体的には、以下のようなプロセスでユーザー像を紐解いていきます。

多角的なコンテキスト(背景・目的)の把握

年齢や性別といった単一の属性情報にとらわれず、ユーザーが置かれている環境、利用目的、ITリテラシーなどを立体的に捉えます。

思い込みを排し、観察と対話に基づく

「男性だから車が好き」といったような決めつけをせず、十分なヒアリングを通じて、ユーザーの実像からペルソナを絞り込む。

私自身、実際のWebサイト制作の現場では、プランに応じて独自のヒアリングシートを用い、クライアントと二人三脚でユーザーの実像や真の目的を丁寧に紐解いています。

参考:各プランごとのヒアリングシートのボリューム
・ライトプラン:30項目
・ベーシックプラン:57項目
・スタンダードプラン:74項目
・プレミアムプラン:96項目

このヒアリングシートは、お客様の基本情報にとどまらず、制作の動機、現状のビジネス課題、達成したい成果や、集客コンセプト、ターゲットユーザー、デザイン要件、機能要件など細かく文字にします。
参考:ヒアリングシートをもとにした思考プロセスを可視化した資料

実例:ネイルサロンのサイトを“ピンク”にしなかった理由

以前、あるネイルサロンのHP制作を行った際も、「女性向けだから」とピンクを主体にすることはしませんでした。

そのサロンのモットーは“上質な時間の提供”。
メイン顧客である働く女性層が「仕事帰りに、日常の忙しさを忘れてホッと一息つきたい」という目的を持っていることが、ヒアリングで分かりました。

そのため、視覚的に華やかな印象を与えるピンクではなく、深呼吸できるような上質さと安心感を演出する落ち着いたベージュを、業界カラーも意識しつつ選びました。

もし“お客様に元気になってもらう”ことがモットーのサロンなら、きっとポップで原色を使ったサイトにしていたと思います。

同じ「ネイルサロン」でも、見るべきは「そのお店が、どんな人に、何を届けたいのか」。
「男性的/女性的なデザイン」ではなく、「そのサイトを訪れる一人ひとりのユーザーにとって使いやすく、心に響くデザイン」こそが、目指すべきゴールなのです。

STUDIO PRACTICE ー SECTION 07

私自身の、小さな実践 ― アイキャッチ画像のこと

実はこの考え方を、私は普段のブログのアイキャッチ画像づくりでも意識してきました。
私は記事を書くとき、まず「誰に向けた記事なのか」を明確にします。たとえばこの記事であれば、次のような方を思い浮かべています。

  • 脳科学やジェンダーの新しい視点に関心があり、デザインとの関わりを知りたい方
  • UCD(ユーザー中心設計)の考え方を、具体例を通して学びたい方
  • 性別にとらわれない、多様なユーザーに届くデザインを目指している方

お気づきの通り、ここに「男性」「女性」という区切りはありません。「初心者」「Webサイトオーナー」といった漠とした区切りもありません。あるのは、その人が抱えている関心や目的です。

アイキャッチ画像も「女性向け」「初心者向け」といった属性起点では選びません。

試しに、これまでの画像を並べてみると、どれかの傾向に偏ることなく、実にバラエティに富んでいました。

多様な記事ターゲットや目的に合わせて使い分けられた、様々なスタイルのアイキャッチ画像のデザイン例(UXライティング、SEO、マンガ、実写、イラストなど)。

おとなしく静かな雰囲気の画像もあれば、アメコミのようにバチッと主張の強い画像もある。
どれもが、「その記事が解決する課題」に合わせて選んだ結果でした。
記事の読者が抱える具体的な関心や目的に焦点を合わせる。小さなことですが、これも私なりのUCDの実践だと考えています。

SUMMARY ー SECTION 08

まとめ― 本質的なニーズに向き合うデザインのために

日本刀の鑑賞をめぐるコメントから、深く考察をすすめましたが、私に大切な気づきを与えてくれました。

・脳が「モザイク」であるように、私たちの嗜好や選択も固定された性別の枠には収まらないこと
・Webデザインの世界においても、属性という呪縛を外し、一人ひとりの目的や背景に深く向き合うこと

あまたあるWebの世界で、自分の誠実な声を届けるためには、表面的なステレオタイプに囚われないサイト設計が重要です。

今回の整理で、私が常日頃モットーとしているUCDの考え方が、間違っていなかったことを、改めて実感させてくれました。
貴重なコメントを寄せていただき、ありがとうございました!

より詳しくモザイク脳について知りたい方へ

モザイク脳の考え方を示した代表的な研究のひとつが、テルアビブ大学の神経科学者 Daphna Joel(ダフナ・ジョエル)教授らが2015年に発表した研究です。

1,400人を超えるMRIデータを分析したところ、多くの人の脳には「男性に多く見られる特徴」「女性に多く見られる特徴」「男女に共通する特徴」が混在していることが示されました。この結果は、脳を単純に「男性型」「女性型」と二分することの難しさを示す、重要な手がかりとされています。

参考:Sex beyond the genitalia: The human brain mosaic

FAQ

よくあるご質問

Q1. モザイク脳とは何ですか?

モザイク脳とは、脳が「男性型」「女性型」に明確に分かれるのではなく、男性的・女性的な特徴がモザイクのように混在しているという考え方です。脳の個性は、性別よりも個人差によるところが大きいとされています。

一般に「男性脳は論理的、女性脳は共感的」などと説明されてきましたが、近年はこの明確な二分法に疑問が投げかけられています。感性や理屈といった特徴は、性別よりも個人の経験・知識・個性によるという見方が広がっています。

ターゲットを性別だけで大別すると、個々のユーザーが持つ具体的な悩みや利用目的が見えにくくなってしまうためです。
例えばネイルサロンの例であれば、「どのような体験を求めているか」という動機を掘り下げることで、本当に響くデザインの選択肢が見えてきます。

UCDとは、作り手の都合やステレオタイプではなく、実際に使う「人」を起点に設計する考え方です。性別ではなく、年齢・目的・利用環境など、個人の文脈を重視します。

その「キラキラ」、VisuaRise Design が形にします。

「男性向け」でも「女性向け」でもなく、あなたのサイトを訪れる“一人ひとり”のために。
言葉にしきれない想いも、丁寧にお聞きして、確かなデザインへと翻訳します。

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ホームページ制作を依頼する前に、知っておきたいこと

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今回は、性別などのステレオタイプに囚われず、ユーザーの実像や目的を起点にするUCD(ユーザー中心設計)の考え方をお伝えしました。この視点は、実際にホームページを制作・発注する場面でこそ、大きな力を発揮します。

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Author

Tomohiro Tatehisa

VisuaRise Design Representative
Web Consultant / Designer

米国政府系企業での勤務を経て帰国後は、グローバル企業でPMOリーダーとして活躍。数千万円規模の小規模案件から100億円超の大規模プロジェクトまで、多様なプロジェクトを成功に導いてきました。 システムコンサルタントとしては、製造業のサプライチェーン領域を中心にBPR(業務改革)を推進し、現場課題の解決と企業価値向上に貢献してきた経験があります。

日本の大手企業での多数のプロジェクトに加え、アメリカ・中国・シンガポール・インド・ブラジルでのビジネス経験を土台に、現在はWebデザイナーとして“伝わるデザイン”を追求。デザイン制作にとどまらず、実務で培った思考法やプロジェクト推進の知見を積極的に発信しています。

このブログでは、プロジェクト現場で得たリアルな学び、実践的なノウハウ、そして国際ビジネスの視点を、初心者から専門家まで届く形でわかりやすく紹介します。「本質を見抜き、わかりやすく伝える」ことを大切にしながら、あなたの創作や仕事に役立つヒントをお届けします。

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